服

セレクトショップを独断と偏見で仕分けする

セレクトショップって、どこも似たようなシャツを売っているのに、入る店によって空気が微妙に違うんだよね。駅ビルの同じフロアに並んでいて、隣どうしで同じような紺のカーディガンを置いていたりする。それなのに、片方の紙袋を提げている人と、もう片方の紙袋を提げている人は、なぜか別々の休日を過ごしていそうに見える。

その差を、勝手に地図にしてみた。縦は「きれいめか、カジュアルか」。横は「王道を行くか、ちょっとひねるか」。どっちも私の目分量です。

勝手に地図

位置は全部、私の目分量と思い込みで決めてる。「いや、そこじゃない」と思ったなら、たぶんあなたの感覚のほうが正しい。

ユナイテッドアローズ

「ちゃんとしてる」を服にしたら、たぶんこうなる。

結婚式の二次会で、夜になってもネクタイの結び目がずっときれいな人がいたら、私はだいたいここのスーツだと思っている。根拠はない。靴もちゃんと磨いてありそうだし、そういう人の傘はきっと折りたたみじゃなくて長傘なんだよね。

隙がなさすぎて、店に入るときにちょっと背筋を伸ばしてしまうのが難点といえば難点。試着室のカーテンを開けた瞬間の「お似合いです」に、妙な説得力があるのもずるい。

それでも、迷ったらここに戻ってくる人は多いと思う。冒険はしない。でも失敗もしない。大事な予定の前の日に頼りたくなる店って、たぶんこういう店のこと。

トゥモローランド

きれいめの中で、いちばん「気分」で服を選んでいそうな店。ニットの色がほんの少しだけ攻めていて、くすんだピスタチオみたいな色を平気で並べてくる。それを自然に着ている人を見かけると、この人は休日、パン屋の開店時間に合わせて起きているんだろうなと想像してしまう。そういう暮らしに、私はずっと憧れている。

シップス

紺のブレザーって、もう制服以外で着る機会のない服だと思っていた。シップスの前を通るまでは。

トラッドを真面目にやり続けている店、という印象がずっと変わらない。ボーダーのカットソーにチノパン、足元はローファー。持っている人はたぶん、同じ形のシャツを色違いで持っていて、それで困ったことが一度もない。

流行が一周してまた戻ってきたとき、ここだけ最初から一歩も動いていなかったと気づく。ツッコミというより、ちょっと尊敬してる。

イエナ

フランスに住んだこともないのに、フランスの朝ごはんみたいな気分にさせてくれる店。

とろみのあるブラウスに華奢なアクセサリーを合わせて、髪はわざと少しだけ崩してある。パリっぽさの解像度があまりに高いので、見ているこっちは、かごバッグを持つべきかどうか毎回ちょっと迷う。持つ人は本当に持ってるんだよね。知らんけど。

エディフィス

ヨーロッパの空気を、日本の満員電車でも着られるサイズに調整してくれている店だと思っている。

細身のシルエットに、色数の少ないコーディネート。なのに小物がひとつだけ、やけにおしゃれ。持っている人の腕時計は、たぶん文字盤が小さい。

気になるのは、「さりげなさ」にかけている努力の量。さりげないって、こんなに準備が要るものだったっけ、と見るたびに思う。その努力をまったく見せないところまで含めて、私はけっこう好き。

ナノ・ユニバース

地図のど真ん中に置いた。悪口じゃなくて、本当にど真ん中なんだよね。

きれいめにもカジュアルにも寄れて、流行もほどよく拾ってくる。その「ほどよく」の精度が高い。初めて会う人との約束の前日に、ちょっといいシャツを一枚だけ買い足したくなったら、まずここが頭に浮かぶ。着ている人の個性が見えにくいのは、たぶん褒め言葉として受け取っていい。

ビームス

ビームスの紙袋を提げている人は、だいたい何かに詳しいと思っている。靴か音楽か、だいたいそのあたり。

1976年に原宿で始まった店で、今では店内にレーベルの名前が多すぎて、自分がいまどのビームスにいるのか分からなくなることがある。コラボのお知らせも、気づいたら次のが出ている。追いかけるのをあきらめた人もいると思う。

ただ、店員さんにひとつ質問しただけで、靴下の編み方の話まで連れて行かれそうな、あの熱量はほかではなかなか見ない。寄り道に付き合える人にとって、ここ以上に楽しい店はたぶんない。

王道の位置に置いたけど、王道のままずっと遊んでいる感じ。そこがいい。

アーバンリサーチ

週末に川沿いを歩いていそうな服。

リネンのシャツに、少し大きめのパンツ。ナチュラル寄りなのに、ちゃんと街の匂いが残っているのがこの店らしさだと思う。持っている人は、コーヒーを豆から挽いていそう。そこまで想像して、さすがに偏見が過ぎると自分でも思った。

行く予定もないキャンプの気分だけを持って帰ってくる人、いるよね。ここはそういう気分にさせるのがうまい。

ジャーナルスタンダード

ヴィンテージっぽい服を、新品で買える店。

古着屋に入る勇気はないけど、古着の空気は欲しい。その気持ちにいちばん寄り添ってくれるのがここ。わざと色の抜けたスウェットとか、少し褪せた色のワークパンツとか。着ている人の部屋には、たぶん観葉植物が三つ以上ある。そして全部に名前が付いている。

フリークスストア

アメリカのカジュアルを、まっすぐ受け止めている店。ひねらない。スウェットはスウェットらしく、パーカーはパーカーらしく大きい。

持っている人は、週末に友だちの引っ越しを手伝っていそう。しかも頼まれる前に軍手を持ってきているタイプ。

気取らないところが、この地図の中でいちばん気楽。セレクトショップの入り口で一度でも緊張したことがある人には、最初の一軒としてここをすすめたい。

まとめ

地図を作ってみてわかったのは、どの店も結局、紺のカーディガンは置いているということ。違うのは、その隣に何を並べるかで、そこに店の好みがにじむんだと思う。

ちなみにジャーナルスタンダードとエディフィスとイエナは、同じベイクルーズというグループのブランドで、地図の上ではきれいにばらけた。同じ家に住んでいるのに、ここまで性格が違う兄弟もなかなかいない。

次に駅ビルを歩くときは、すれ違う人の紙袋の色を少しだけ見てしまいそう。

※この記事は個人の独断と偏見です